生きるためのすざまじい戦略
ゴキブリのことをアブラムシと呼ぶ人もおられますが、ここでいうアブラムシは、ゴキブリのことではありません。
アリマキとも呼ばれるアブラムシは、植物の体を流れる大切な液を葉や茎で吸い、移動してウイルスを媒介することもある害虫。
しかし、体は柔らかく、簡単に押しつぶすことができるぐらい弱々しい小さな昆虫です。
10年も前に旅先で買ったローズジャイアントの苗、毎年きれいな花を咲かせていて、大切にしていましたが、そのつるや葉についたたくさんの、まっ黄色のアブラムシ!
はじめは退治してやろうと思いましたが、あまりに鮮やかな色をしていたので、軽く動画に収めてみました。
動画をよく見ると、小さな虫たちのいろいろな姿が写っていて、どういうことかなと調べてみました。
すると、アブラムシは生きるためのすざまじい戦略をもっていることがわかりました。
目次
1.どんどん産むよ
2.みんな!あぶないよ!!
3.身を挺して
4.食糧となるアブラムシ
5.ジュースばっかり飲んでいるのに・・・
6.ウエストがくびれて・・・
7.きもかわアブラムシ
1.どんどん産むよ
アブラムシはメスだけでどんどん子どもを産み、増えることは知られています。
アブラムシは、卵を産むのではなく、おなかの中で大きくなった子どもを産みます。
1日に5~10匹の子虫を産み、その子虫は4~7日で成虫となり子どもを産むようになります。
おそるべきは、母虫のお腹の中にいる子虫のそのお腹の中には孫虫がすでに準備されているということ!
アブラムシのお腹の中には、あたかもマトリョーシカのように子・孫・ひ孫と入れ子になって子孫が存在します。
この戦略で、条件が許せば、1匹のアブラムシから1か月後には1万匹になる計算!
出産シーン ↓
2.みんな!あぶないよ!!
アブラムシの体には、第8節から上に向いて突き出た管があります。これを角状管といいます。
この種のアブラムシでは、黒い色。角状管からは、危険を察知したときに、警報フェロモンを含む液が分泌されます。
危険を感じたアブラムシはこの液を出し、仲間に危ないよと知らせます。このフェロモンを察知したアブラムシは、葉の裏から下に落ちたり、歩いたりして逃げるようです。
この大きいアブラムシの角状管の上には、茶色の玉がついています。これは警報フェロモンを含んだ液が固まったもののようです。しかし、このアブラムシは逃げるのではなく、ずっと吸汁しています。小さい方のアブラムシはウロウロ歩き回っています。
警報フェロモンを察知すると、小さいアブラムシ(1齢幼虫)は落ち着きなく歩き回るらしいです。
トップの動画では、小さいアブラムシがあちこち歩き回っています。これは、警報フェロモンを察知して、「たいへんだたいへんだ」と反応しているとみられます。
大きいアブラムシは逃げる間も惜しんで?体を大きくし、子どもを産むために吸汁中。。。
左にある抜け殻のようなものも、茶色い玉をつけています。小さいアブラムシが当たっても、しっかりと倒れず立っているのにびっくり。これは、脱皮した殻だと思いましたが・・・もしかして・・・
3.身を挺して
小さいアブラムシは警報フェロモンを察知すると、あるものは歩き回り、あるものは敵のまわりに集まるそうです。それがこれ!黒いのはアブラムシの体液を吸う天敵、ヒラタアブの幼虫。小さいアブラムシは、集まってきて敵を囲み、餌食になることで、仲間を守るとか。体液を吸われながら、警報フェロモンを出す小さいアブラムシ、それを逃げずに囲むアブラムシの幼虫たち。おかわりにはわたしをどうぞとでも言っているかのよう。
少々食べられても出産数の多さで勝負するという、すざまじいアブラムシ戦略!
ヒラタアブがアブラムシを吸うと、体の中身が抜き取られて、抜け殻だけが残るようです。
さっきの抜け殻も、食べられた跡かもしれません・・・警報フェロモンの茶色い玉を残して・・・
アブラムシが集団でダンスをしている様子がみられますが、これも警報フェロモンを出したり、察知したりしている反応かもしれません。最後に動画があります。
4.食糧となるアブラムシ
アブラムシといえば世界的な害虫。作物の葉や茎の汁を吸って枯らすだけでなく、植物のウイルスも媒介します。農家の方々にとっては大迷惑の虫。理想的条件下ではたった1匹のアブラムシが生む子孫の重量が1年間で人間1万人分になるとか。
しかし、どんどん増えるアブラムシに地球を占拠されていないのは・・・ アブラムシを食べる虫がたくさんいるということ。体が柔らかく、敵が来ても素早く逃げないアブラムシは、テントウムシをはじめ、先ほどのヒラタアブの幼虫など、たくさんの虫たちの食糧となっています。
このことから、アブラムシは他の生き物のためにエサとなる子虫を増産しているようにも見えます。
逃げることに力を使わず、吸汁し続けて成長し仲間を増やす。多くの犠牲は織り込み済みということのようです。
5.”ジュース“ばっかり飲んでいるのに・・・
葉や茎を通る師管液を吸うアブラムシ。吸うといっても、この液は、植物の中を流れる圧力によって、口の中に自然と流れ込むらしいです。1日に体重の7倍もの汁を吸うので、吸われた葉や茎は勢いを失ってしまいます。
アブラムシが吸った(流れ込ませた)液の不要分が甘い液としてアブラムシのおしりから外に出される。これをねらう虫たちも多いようです。アリは液をもらうためにアブラムシを敵から守るとか・・
アブラムシが吸う師管液の成分を調べるために研究者はどんな方法をとったか。それは、液を吸うアブラムシの口吻をレーザーで切り取り、中の液を調べたという!すごい!
吸う前のジュースを採取するのではなく、それを吸っている最中の短い短いストローを切り取って中にある液を調べるということ。なぜそんな面倒なことをするかというと、葉や茎から師管を探し出してその中を通る液をとりだすことはとても難しいことなんだそうです。そのため、口吻を切り取るという方法が使われるとのこと。中にある液もほんの少しでしょう。
でも、アブラムシはその見つけるのが難しい師管を探し当てて、液を吸っているということのようです。
そうして調べた液の成分は大部分がショ糖。甘いジュースだけ飲むという偏った栄養で、どうやってあんなにたくさんの子を産めるのか??
それはなんと、アブラムシは必要な栄養を作ってくれるバクテリアを体の中に共生させているからだそうです!
腸内細菌類の「ブフネラ」というバクテリア、これを住まわせる特別な細胞をいくつも体の中にもち、栄養の偏った食物から必要な栄養を作ってもらっている!
そのおかげでジュースばかり飲んでいるのに驚異的な増え方ができるというわけでした。
そして、その大事なブフネラは「マトリョーシカ」の中でちゃんと子に受け継がれていくのでした。
6.ウエストがくびれて・・・
たくさんのアブラムシの中にウエストがくびれたスマートさんがいました。胸には茶色い小さな翅があります。
たくさんのアブラムシで埋め尽くされた茎、増えすぎてこのままでは食糧難になる。アブラムシはタイミングを見計らって、メスがメスをどんどん産む単為生殖から、卵を産むメスと受精させるオスがいる有性生殖に切り替えます。そのサイクルのありようは種類によってもほかの要因によっても異なっています。
体は飛ぶためにシェイプアップされ、胸には羽ばたくための筋肉をつけ、そのために大切なブフネラですらエネルギーに使われるといいます。
この切り替えのタイミングは、季節の移り変わりや汁を吸う植物の状態などを察知して決めているそうです。
翅が生えたアブラムシは風に飛ばされるように飛んで新しい場所でまた群れを作ったり、越冬のための卵を産んだりします。
7.きもかわアブラムシ
ローズジャイアントの花の側から見たら、アブラムシはとんでもない害虫ですが、アブラムシもまたけなげにひたすら生きるかわいい生き物でした。
この黄色くて黒い色の肢をもつアブラムシは「キョウチクトウアブラムシ」だとわかりました。
そして、調べてみると、ローズジャイアントは、なんと「キョウチクトウ科」の植物でした。
キョウチクトウはその枝を使った串で食事をした人が亡くなったこともあるという猛毒をもつ木。
おなじ科のローズジャイアントにも毒があると思われます(触って何かあったことはありません)。
その師管液をすうキョウチクトウアブラムシ、この毒には耐性があり、逆にうまく利用しているのでしょう。
目を引く鮮やかな黄色に黒い肢や角状管、キョウチクトウアブラムシのおしゃれな体の色は、体に毒があるぞということを知らせる警戒色と思われます。テントウムシもこのアブラムシを食べると死んでしまう種類もいるとか・・・こわいこわい。
そういえば、動画でモコモコ動いているヒラタアブの幼虫が、キョウチクトウアブラムシの幼虫を襲っていたけれど、動かなくなっているようすでした・・・毒にやられたか??
すごい色して、たくさんいるなあと、おっかなびっくり動画に収めてみましたが、調べてみると、その生き延びる戦略のすごさに驚きました。ローズジャイアントのために、キョウチクトウアブラムシは退治してしまったのですけれど、もっと観察したらよかったなーと思っています (^^♪
読んでくださりありがとうございました。
アブラムシについて、教えてもらった本たち
アブラムシの生物学 石川 統 東京大学出版会
アリマキ観察事典 小田英智 偕成社